カプワ・ノールで念願の再会を果たした。 結界の中ではなく外で云々を抜きにしても、親友やエステリーゼ様と顔を合わせられた事は嬉しい。これは、素直な気持ちだ。 だが。 「さあ、フレン!彫像です!」 一体、これはどういうことだ。 腕力に目を瞠れ2 「フレン!」 親友のユーリと話し込んでいる間、懐かしい声が届いて。振り向くと同時に勢い良く飛び込んできたエステルを抱き止めて、フレンは内心慌てふためきながらも優しく微笑んだ。やはり心許せる数少ない人との再会は、フレンとしても喜ばしいものがある。息を抜ける瞬間だ。 「エステリーゼ様、よくぞご無事で」 身を離しながら、喜びを伝えて。フレンは、取り敢えず宿に移動するために彼女を誘導しようと動きかけた。雨に長い間晒されるのは、身体にも良くないだろうという配慮からの。それはもう彼の性分の様なものだった。 が。 「フレン!ああ、会いたかったです!」 がしりと、会うなり右手を両手で掴まれた事に、フレンは一瞬頭と言わず全身が空白になった。恐らく、本能が理解を、察知を拒否したのだろう。ぎゅーっと離すまいとする様に強く強く握り込まれ、手が痛みを鈍く訴えてくる。興奮しているのか、心持ち彼の手が赤くなっている事に、エステルは気付きもしない。 その雰囲気に只ならぬ物を感じ取り、フレンは心持ち後退った。ずさりと、足が大地を鈍く擦るのを他人事の様に感じ取る。 ―――これだけ感激されて、身に余る光栄であるはずなのに。何となく、関わりたくないと思うのは失礼だろうか。 そうだ、失礼だと。思い直そうと思考を別方向に持っていこうとする努力とは裏腹に、即効で逃亡したい気持ちは刻々と膨らんでいって。フレンの声が、変な風に上擦っていく。 「え、エステリーゼ、様?」 「ユーリから色んな話を聞きました。フレンこそ困った人を見捨てる事が出来ないだろうとか、お互い様とか、昔から剣の腕もかけっこも一度だって負けた事が無いとか・・・・・・」 いや、何故今そんな話になるのだ。 親友との思い出話は、いつもエステルにせがまれていたから話していた。だから、今更恥ずかしがる必要も無いし、くすぐったくも微笑ましい話のはずなのに、寒気が増すのは何故だろう。 これは、気のせいだろう。いや、ええと、きっと、恐らく絶対多分そうに違いない。 大いに相反する心境を絡ませて、フレンは引きつった笑みで体面を整えた。傍からすれば、誰もが魅了されるほどの笑顔に映るのは、彼の為せる特技である。 「・・・・・・そ、そんな話を・・・・・・?」 「はい!それでです!」 何が、「それで」なんだ。 疑問に思いながら、その先を聞きたくないと望みながら、立場上逃れられないフレンは流れに従うしかない。救いを求める様に目を彼女の背後にいる親友の方へ向けると、心なしか、親友の視線はどんどん明後日の方向にずらされていく。「オレ犯人です」と言わんばかりに。 原因は、君か。ぐさりと視線で刺して、フレンは取り敢えず話を促した。 「・・・・・・ええっと。何です?」 「はい!」 ぱん、と両手を合わせて。エステルはきらきらとお星様の様に瞳を輝かせた。 「フレン、石像を片手で引っ張り上げられるというのは本当です?」 いきなり何を言い出すんだこの方は。 頭痛を覚えながら、けれどそのまま本音を口にする事は憚られ。フレンは「はい?」と、説明を求めてみた。 更に視線を首ごとずらしていく親友に、フレンは視線を更に鋭く磨き上げる。こっそりと。 「ユーリが見せてくれたんです。お城にある女神像を片手で引っ張り上げて・・・・・・」 「君、何てことしてくれたんだ」 「え?」 思わず飛ばしたツッコミにエステルが敏感に反応したため、フレンはわざとらしく咳払いしながら誰もが蕩ける笑顔を取り繕う。 「いえ、何でも。・・・・・・続けて下さい」 「あ、はい。ユーリが、フレンも同じ事が出来るって」 「君、余計なこと言いすぎだよ」 「え?」 「いいえ、何も。・・・・・・そうです、ね。恐らく出来るかとは思いますが」 またも吹っ飛ばしたツッコミにエステルが首を傾げてきたため、フレンはにこにこと肯定した。――顔から少しだけ血の気が引いている事に気付いたのは、災いをもたらした親友のみというのが、不幸中の幸いだ。 が。次のエステルの言葉に、今度こそフレンは誤魔化しようも無く、ざっと音を立てて青褪めた。 「それで。二人揃えば、身長を遥かに超えた石像を片手で持ち上げられるとか!」 ちょっと待て。 とんでもない勘違いをもたらしてきたエステルに、フレンはびしりと凍り付いた。凍り付いたまま、唇を無理矢理動かす。 今のは、耳が故障したのだ。そうだ。そうに違いない。もう一度、救いを求めて聞き直してみる。 「・・・・・・はい?」 「二人共、凄いです!尊敬です!私には絶対出来ません」 いや、僕にも出来ないよ。 思わず素の口調に戻り、そうツッコミたかったが。きらきらと純真な期待を乗せる彼女の視線に、言葉は喉元にこびりついたまま。話は、無情にも進められていく。 「ちょうど、あそこに像があります!是非!やってみて下さい!私、とっても楽しみにしていたのです!二人の仲良しパワーをこの目で見る日を・・・・・・」 「ちょ、ちょっと待って下さい。エステリーゼ様、一体何を仰って・・・・・・」 「さあ、こっちです!ユーリ!フレンを連れて来ました!あの像を片手で持ち上げて下さい!」 「・・・・・・ああ!?」 どーんと聳え立つ像の前に連れてこられ。今まで傍観態勢一辺倒だったユーリの顔が、ひくりと引きつった。隣に並ぶフレンも同様の表情を見せ――次いで、ユーリの胸倉を掴んで笑顔で詰め寄る。額に十字の青筋が浮かんでいるのは、ユーリの気のせいでは決して無い。 「・・・・・・ユーリ!君、エステリーゼ様に何を吹き込んだんだ!?」 「いや、あれは・・・・・・ちょっと調子に乗って・・・・・・って、そこはお前が言い包めろよ!?間違いを正し、そいつのためになる道を指し示す・・・・・・そのための騎士だろ!?」 「何を言っているんだ!?言い包めるなんて、そんな・・・・・・エステリーゼ様に向かって、そんな失礼な態度取れるわけないだろ!?どう責任を取ってくれるんだ!?」 「いや、時には冗談も交えないと、気を張り詰めすぎて過労死なんてやってられないってわけでだないや待てフレンその剣収めろ!悪かった!多分オレが悪かった!」 「多分でも恐らくでももしくはでも何でもなく、君のせいだろ!」 ぎゃんぎゃんと、とてつもなくくだらない言い争いを勃発させる親友コンビを遠巻きに観察し。カロルは「あ、はは」と乾いた笑みを漏らし。リタは「馬鹿っぽい」と心底呆れ果てながら腕を組む。 「あれ、どうするんだろう?」 「さあ?あいつが招いたんだから、あいつが何とかするんでしょ。あの友人はご愁傷様だわ」 「リタ・・・・・・」 「でも、騎士だか何だか知らないけど。やっぱユーリの友人はユーリの友人なのね。あたし、学習したわ」 「そうなんです?」 「・・・・・・あんたの天然が空恐ろしいってこともね」 「・・・・・・?」 鬱蒼とした灰色の雨雲から沈鬱に降り注ぐ土砂降りの街で。 口論する者二名。見守る者二名。期待に満ちて望む者一名。静かに「わふん」と蹲るもの一匹。 悪政に敷かれた街の一角で、ほんのひとときだけ、賑やかで騒がしい光景が繰り広げられていたとかいなかったとか。 ユーリとフレンの最初から最後まで明るく仲良い話が書きたくなったので書いてみました。その内普通の話で明るいものを書きたい。 微妙に続きます。 【2008/12/16】 |
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