たった一言が。
 響き、胸を焦がす。



響き、焦がれる



 カプワ・ノールで再会した時、あの騎士はエステリーゼの手を取って宿屋に駆け込んで行った。
 そしてその後も、彼女を呼び止め、楽しそうに話し込んでいた。
 だから、今回も彼が声をかけてきた時、てっきり彼女に用事があるのだと。そう思い込んでいた。それは当然の帰結だと、誰もが賛同してくれるだろう。多数決で決定するまでもない。
 そう。とどのつまり。

「モルディオ殿!」

 まさか、自分に話しかけてくるなんて。夢にさえ描いていなかったのだ。





「良かったです、人違いじゃなくて。ノールで見かけた時からずっと気になっていて」

 にこにこと、眼前で嬉しそうに胸を撫で下ろす騎士を、リタは奇怪珍妙な生物を見る目つきで無遠慮に凝視した。恐らく視線が物体化したなら今頃彼の顔には風穴が開いているだろう。そう思えるほどに物凄い痛烈な批判を乗せて、リタは彼を射抜いていた。
 彼の顔を見ていると、何故か不可解な苛立ちが募るのだから、無愛想な空気が滲み出ていたとしても仕方が無い。リタの側からしてみれば、それが正論だった。与り知らぬ内に加害者扱いされた、被害者である騎士の側からは別としても。
 だが、そんな険悪な雰囲気は物ともせず、相も変わらず騎士は人の好い笑顔を振り撒くので、リタの中で苛々の塵が山の様に累積していった。塵も積もれば山となる。なるほど、先人は上手い事を言う。今がまさにその状況だと、リタは変な部分で感心してしまった。
 そして、距離を多分に離した所でエステルやカロルがのほほんと見守っているのが、また居た堪れない。理由は不明であったが、とにかく苛立ちに拍車をかけてくる。

 唯一のストッパー役になるだろう騎士の親友は、今ここにはいなかった。カプワ・トリムで、次期皇帝候補のヨーデルを拉致していたりカプワ・ノールで悪政を敷いていたラゴウを追い詰めたまでは良かったものの、評議会員という立場を笠に着て逃げられて。そのごたごたで先程までこの騎士と口論し、打ち負かされてしまった彼は、悔しそうに歯噛みしながら出て行ってしまった。
 リタとしては、ラゴウを野放しにしているのは十年もの間皇帝不在という影響が如実に表れた結果だろうと冷静に分析出来たし、ユーリの意見もフレンの主張もどちらも一理あり、また永遠に相容れない論理だろうなと第三者の立場からはよく見渡せた。リタとしては、お互いの立場から補助し合えば良いのにと、楽観的かもしれないが意見してやりたかったくらいだ。まあ、現在の説得力を何も有していない立場のユーリでは、その提案の成立も難航するかもしれないが。
 それはともかく。痛い箇所を突かれて飛び出していったユーリを追いかけ、リタ達も宿の部屋から退室しようと扉を開いた所で、この騎士はあろう事かリタを呼び止めてきたのだ。
 顔を合わせたくなかった一方で、後ろ髪引かれていた部分を自認して、憤ってしまった。爆発したかったくらいだ。傍からすれば自分だけしか変人に映らなく、分が悪いので実行はしなかったが。
 彼は、自分を苛立たせる天才だ。非科学的な存在に、思わず口をへの字に曲げてしまった。

「先程は、お見苦しい所を。今はユーリ達と一緒に旅を?」
「そうよ。見れば分かんでしょ」

 じゃ、そういうことだから。
 口にしようとして――リタは実際音として舌に転がせなかった。何故か、言葉に変化しなかったのだ。普段なら、誰が相手でも素っ気無く踵を返せるのに。
 見えない糸が、足の裏から引いているかの様に。靴底が地面に貼り付いて、一ミリも剥がせなかった。
 ―――これじゃあ、彼の次の言葉を待ち望んでいるみたいじゃない。別の自分が意地悪そうに見下ろしているのを感じ取って地団駄を踏みたくなったが、今のリタにはどうしようもなく。無情にも話は続けられる。
 が。

「旅は、楽しいですか?」
 いきなり何を言い出すんだこの騎士。

 空耳だったかと。リタは一筋の救いを求めて、白い目で聞き返してみる。尋ねる声も、真っ白だった。
「・・・・・・は?」
「旅は、楽しいですか?」
 話の筋が、全く見えてこない。この人物は割と論理的思考の持ち主であると思うのだが、これも話を展開する作戦の一部なのだろうか。にこにこした面を殴り倒したくなったが、彼には涼しい笑みで躱されそうなので、思うだけに留める。
 不可解で些末な事項としか見込めない質問ではあったが、リタは取り敢えず率直な感想を述べてみた。
「まあ、悪くはないわね」
 これで良いでしょ、と。今度こそ踵を返そうと試みて――またも、それは無駄な努力に終わった。
 見上げた先に、穏和でありながらも眩い笑顔を見つけて。初めて彼と対面した日。太陽が降って来たのだと信じてしまった、あの時と同じ感慨を抱いてしまって。
 反則的な不意打ちに、リタは心を飲み込まれた。悪態を吐くのも忘れて、目も行動も奪われる。

「それは良かった。ユーリと一緒なら退屈もしないでしょう。あいつは、すぐ事件に巻き込まれるから」
「・・・・・・何がどう良かったのかは流すとして、事件に巻き込まれるっていうのは大いに頷けるわね。何か憑いてんじゃないの、あいつ」
「ははっ。それは言えているかも。あいつには“お前が憑いてるんだよ”とよく抗議されましたが」
「ああ、似た者同士って奴ね」
「それは褒め言葉?」
「そうね。あたしとしては最っ高の賛辞よ」

 腰に手を当てて全力で貶してやれば、騎士は楽しそうに喉を鳴らした。何がそんなに面白いんだか、とリタは顔中で呆れを表現してしまった。頭に花でも咲いているんじゃないかと目を疑う。そうでなければ、年中春ボケで汚染されているに違いない。
 ひとしきり笑った後。気が済んだのか、騎士は笑いを収め、改まって向き直ってきた。柔らかい物腰なのに、凛とした覇気を反発させずに潜ませているのは流石に上に立つ者としての才なのか。リタも感化され、心を入れ替えて対峙する。
「モルディオ殿は、滅多に人と一緒に行動しないと聞いていたので。ユーリ達と旅をしているという事は、それなりに楽しんでいるのだろうな、と。アスピオで顔を合わせた時よりも顔色も良いし、安心したんです」
「はあ?あんた、そんな所まで見てるわけ?」
 呆れたと、今度は遠慮なく述べてやれば、騎士は困った風に首を傾げてきた。リタとしては、本当に茫然とするしかない。まさか、誰もが見落としてしまう様な細かい部分まで気にしてくれていたとは思いも寄らなかった。
 ―――ホントのホントに、本気で心配してくれてたんだ。
 そう受け入れた途端。何故だか、急激に歓喜に似た情動が込み上げてきて落ち着かなくなったが、それは命がけで、モルディオの名に懸けて平静を装う。
 口元も力の限り一文字に引き結んだ。決して、緩みそうなわけではない。断じて。
「・・・・・・まあ、旅してれば嫌でも寝るし食べるしね」
「ユーリは料理も上手だから、美味しいでしょう?」
「それは、まあ認めなくもないけど」
「・・・・・・それに・・・・・・モルディオ殿の様に優秀な魔導士がユーリに付いていてくれるのは、とても有り難いんです。自分でも実感していますし。遠距離攻撃の得意な人がいてくれるのは心強い」
「ふーん・・・・・・あれだけ手厳しくやり込めても、やっぱり心配なんだ」
 まあ、本当に彼の事を考えているから真正面から切り出せるんだろうけど。
 声にはしなくとも伝わってしまったのか、騎士は再度困った様に軽く首を傾げて、目を伏せた。顎に手をかけて沈思している姿は、言葉をまとめているらしいとリタにも察しが付く。

 ―――あたし、何でこんなにまともに相手してるんだろう。

 不意に我に返りながら、いつの間にか対話を堪能している自分を割り出してしまい。えも言われぬ感覚が、雷の様に頭のてっぺんから足先まで走り抜ける。今すぐこの場から逃げ出したい衝動に駆られたが、それは矜持が許さなかったので留まる選択をしてしまった。おかげで、何度もじれったい感覚が背筋を駆け上がり、もんどりうちたくなるのを堪えなければならなかった。心なしか、足が痙攣している気がする。生き地獄だ。
 その悶絶の葛藤の合間に、道筋を立てられたのか。騎士は顔を上げて、目を細める。その笑みがまた、リタの心を突いてくる類のものだったから、全身がむず痒くなった。

「ハルルの結界魔導器のことは聞きましたか」
「・・・・・・ああ、あれね。見事なものだったわよ。稀にさえ見ない光景だったわね」
「そう。それが彼と・・・・・・私の差です」

 少しだけ遠くを――まるでそこに求める光景が見えているかの如く焦点を遠ざける彼を、リタは神妙な面持ちで仰いでしまった。
 その声音が、あまりにしみじみと感じ入っていたから。自嘲の色が微かに混じっていたから。不覚にも耳を傾けてしまった。
「自分が面倒な手続きを踏んでいる間に、彼は仲間と一緒に動いて解決してしまった。魔導器に関しては騎士としての立場からは不用意に触れられないから、自分ではあそこまで迅速には動けなかったでしょう」
「・・・・・・まあ、そうね。騎士って堅っ苦しいし。息が詰まるから、好きじゃないわ」
「さっきのラゴウの件も同じ。騎士である自分に、あれ以上追及が出来なかった」
「・・・・・・それが現実でしょ、今の騎士の」
「・・・・・・ユーリは、規則や悪を野放しにする法に幻滅した。困っている人を見過ごせなかった。だから、騎士団を出ていった」
 ユーリの言う事は正しい。そして、目の前で打ちひしがれている人達を即座に救い上げる事が出来る。
 それは、自由に行動に移せる彼だからこそ為せる、彼だけの特権。
 でも。

「僕も、傷付いて嘆く人を見捨てる事は出来ない。したくない。でも・・・・・・今のユーリの行いは根本的な解決にはならない。帝国が今のままである限り、ラゴウの様な人物はのさばる。万人が等しく扱われる法を整備しなければ、いつまでも虐げられる人は虐げられたままだ」
 言葉を切って、彼は改めて宣言するためリタを見つめる。まるで、証人を立てる様に。
「だから、僕は帝国を内部から変えるために騎士団に残った。それが、僕の選んだ道だ。だからこそ、理想と現実の間にある矛盾を僕は受け止めなければならない。どれだけ打ちのめされようと。踏み躙られて嘲笑われようと。結果、見捨ててしまった人から泣きながら掴みかかられて罵倒されようと。全て、受け止めなければならない」
―――――――――・・・・・・」
「何かを成すならリスクは付き物だ。そのリスクが例え、自分であったとしても。・・・・・・これからも、自分は傷付いてもこの道を歩いていく。詰られ様とも、歩みは止めない。それが、僕の責任であり、――彼の前で胸を張れるための誇りだから」

 決然とした誓約に。凛冽な炎を奥底に燃え滾らせた眼差しに。リタは眩しそうに目を細めた。
 彼は、気付いているだろうか。一人称が「僕」に戻っていることを。自分に対して敬語を無くしてしまっていることを。紛う事なき「自分」を見せていることを。
 ある意味、彼は自分に通じる所があった。そして、ユーリも。
 傷付くのが自分でも、歩き続ける。それが自分の信じた道なのなら。護られた場所で安穏と過ごすのではなく、茨で閉ざされた険しい斜面であろうと、自ら茨を掴んで先を目指すのだろう。心から血を流しながらも、傷だらけになっても真っ直ぐに到達点を見据えて。

 ああ、だから。目的のためとはいえ、ユーリ達と一緒にいるのかもしれない。そして、彼とこうして言葉を交わしているのかもしれない。

 ようやく自身の中で一つの答えが弾き出されて。リタは、妙に納得してしまった。それでも、彼の一挙手一投足に左右される解答には繋がってはいないのだが、それはこの際問題ではない。
「・・・・・・それで?」
 続きを促してやれば、騎士は立ち返った様に目を瞬かせた。次いで、少しだけ照れ臭そうに首の裏を指で掻く。こんな顔もするのだなと、リタは興味深げに観察した。
――つまらない話を。・・・・・・自分がこうして騎士団で上を目指せるのは、彼の行動があるからだと、零れ落ちたものを掬い上げてくれているからだというのは理解しています」
「ふーん。で?」
「ユーリは、この旅できっと自分の道を見つけると思うんです。前を向いてくれると信じているんです。だから・・・・・・もし差支えがなければ、どうかこれからも彼を傍で支えてはくれませんか。彼にはこのまま、目的を達成した後も旅を続けて欲しい。自由に動ける、彼だからこそ。そこに貴方がいるのなら、安心出来ます」
 とつとつともっともらしく述べられた懇願に、リタは込み上げてくる笑いを喉元で押し止めた。
 要約すれば、結局は「彼を心配している」という一言に尽きる。素直に自分の言葉に頷けば良かったのに、長々と遠回しに肯定するなんて、彼も大概捻くれている。さすがはあのユーリの親友だ。根っこは何処までも一緒らしい。
 それに、リタは次第に腹も立って来ていた。自分を本音の捌け口にして勝手な要請をしてきた上に、言葉遣いが一貫しないとは何事か。
 無茶苦茶な言いがかりだったし、肝心の「何であたしに?」という疑問が綺麗さっぱりに抜け落ちていたのだが。しかし、今のリタにその真っ当な指摘が通るはずもなく。つんと顎を上げて彼を射抜く。
「そうね。道が重なっている内は一緒にいるわよ。・・・・・・ただし!条件があるわ」
 腕を組んで睨み上げてやると、騎士は案の定意表を突かれた様に当惑の色を瞳に走らせた。それでもすぐに持ち直して「何でしょう?」と切り返してくる所が、また頭に来る。
 だから、告げてやった。あまりにくだらなく、無意味でどうでも良い脅迫を。


「あたしの事は、呼び捨てにしなさい」


 リタの読み通り、騎士は挙げられた主張を耳にした途端、目を丸くした。きょとんと擬音でも聞こえてきそうな反応を封じて、リタは畳み掛ける様に命じる。
「あのウィチルって魔導士だってあたしと同じ研究員なのに、何であいつのことは呼び捨てで、あたしはファミリーネームでしかも“殿”なわけ?おかしいじゃない」
「は・・・・・・」
「それにあんた、ユーリの親友なんでしょ?あいつはあたしのこと、無礼にもリタって呼び捨てよ。それなのに、何で親友のあんたが呼び捨てじゃないわけ?おかしくない?」
「・・・・・・は・・・・・・」
「だから、呼び捨てにしなさい。それが条件よ。そうでなければ、聞いてはあげないわ」
 一気に捲くし立てて、リタは外方を向く。勢いで口走ってしまったが、今更ながらに尋常じゃなく慙愧に塗り固められた通達だ。これではまるで、機嫌を損ねて拗ねている子供ではないか。
 だが、前言撤回をしても彼の記憶から抹消するのは不可能だ。ならば、このまま押し切ってしまった方がまだ赤面はしなくてすむ。はず、だ。
 結局は建前にしか過ぎないと。騎士に見透かされやしないかと変な懸念に駆られながら、沈黙に耐え忍んでいると。
「・・・・・・その理屈だと、エステリーゼ様のことも呼び捨てにしなければならなくなりそうな気がするんですが」
 ―――何でそこで、その名前が出てくんのよ。
 意図せずに毒突きたくなったが、そこは根限りに噛み殺した。素知らぬ顔で目を逸らす。
「・・・・・・すれば?」
 恋人同士なんでしょ、と。暗く呟いた付け足しは、幸いにも相手には拾えなかったようだ。「え?」と訝しげに訪ねてくるが、それには黙秘を貫く。胸の辺りで発生した黒い靄の正体は知りたくなかったから、これ以上は彼と彼女のことを話題にはしたくない。
 不機嫌に顔が曇ったのに、騎士は気付いているのかいないのか。いまいち判然としない表情でリタを見つめ。
 ふっと、子供の様にあどけなく、大人の様に穏やかに相好を崩した。
 本当に幸せそうだなと、リタは呆れを通り越して文字通り感嘆した。きっと他愛も無い、誰にも理解してもらえない幸せでも、彼なら余さず拾い上げて微笑むのだろう。こんな風に。

「じゃあ、リタ」
―――、敬語も無しね。・・・・・・フレンで良かったっけ?」
「ああ。覚えていてくれて光栄だ。――改めて。よろしく、リタ」

 すっと当然の様に差し出された手を見下ろして。リタは、一瞬迷ったが取り敢えずさっと軽く手を取って、感触が残らない内に離した。少しでも彼の熱が残留したら、意識しているみたいで耐えられない。
 それに、刹那的ではあったが、体面は保ったはずだ。素っ気無くても相手が気分を害しても、それはリタの知ったことではない。
 けれど、リタの予想に反して、彼は不快そうに眉根を寄せるどころか、にこにこと花が日差しを浴びて嬉しそうに笑う様な顔を見せてくるものだから。蓋をしていたはずの箱の下から、じわりと迫り上げられてくる昂ぶりを黙殺するために、焦がれる様な衝動を浄化させるために、リタはさっさと背中を向けた。これ以上、心を無遠慮に掻き回す彼の笑顔を目にしていたくはない。
 根気強く待ってくれていたエステルとカロルに意味ありげな視線を送られたが。カロルにはチョップを叩き込み、エステルにはユーリの名を出す事で矛先を逸らした。
 そうまでして、冷静さを、自分のペースを取り戻そうと奮闘したのに。
 扉を閉める際、偶然にも視界に滑り込んできた騎士――フレンと目が合って。綺麗な蒼が映るだけで、訳も無く全身の熱が煽られる自分を叱責するために、リタは多大な精神力と体力を振り絞って扉を閉めた。ばたん、と予想以上に上がった大音量にエステルとリタが身体を跳ねさせたが、取り繕う余裕も無い。扉に両手を突いて肩で息をする。

 とことん振り回されている。それが気に食わないのに、裏返せば期待している様な気もして。それが、尚の事気に食わなかった。

 あの、落ち着いた心地良い声に、「リタ」と呼ばれた時に。名前が、胸に打ち響いてきた時に。触れた手の平から、彼の熱が鳴り響いてきた時に。全神経を傾倒して、冷ややかな姿勢を維持していたなんて。死んでも認めたくはない。絶対に、認めない。
 はあっとゆっくり呼吸を整えて。妙に疲労感と脱力感を味わいながらも、心が軽くなっている事に気付いて。そこで初めて、想到した。

 ―――そういえば。まともに会話、成立したわね。

 カプワ・ノールでは、自分達が対面したら絶対に沈黙のオンパレードだと確信していたのに。
 現実は違って。彼の決意表明にまで立ち会う事になって。しかも一部を除き、皆が子供のくせにと馬鹿にする自分に、掛け値なしの信頼を見せて大切な親友を任せてきたりまでして。
 ―――世の中、先がどうなるかなんて本当に分からないわ。
 改めて再発見して。それだけでも収穫はあったかと。勝手気ままに結論付けて、リタはさっさと歩き出した。
 名残を惜しむ様に、握手を交わした右手を握り締めていた事実には。リタは最後まで気付かなかった。


 たった一言、呼ばれただけなのに。
 響き、焦がれる理由は。まだ、闇の中。





このサイトのリタは、フレンに一目惚れだったのかもしれないと今更気付いたお話。
フレン視点をそろそろ書かなきゃ駄目だなと思い知らされた話でもあります。

【2008/12/6】

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